日本企業のコーポレートファイナンス


著者名 砂川伸幸 川北英隆 杉浦秀徳
タイトル 日本企業のコーポレートファイナンス
出版社 日本経済新聞出版社 2008年2月
価格 3200円 税別

書評

いま、コーポレートファイナンスの理論が日本企業の実務に活かされている。資本コストを意識した経営指標を取り入れ、資本コストを基準にした投資決定を行っている企業は少なくない。M&Aの現場では、DCF法やマルチプル法を用いた価値評価が行われている。企業価値を高めるため、財務部門や企画部門は、投資銀行やファイナンシャル・アドバイザーを交えて資本構成(負債比率)や配当などの財務戦略を議論している。M&Aブームや株主提案の増加、株主重視の浸透などによって、一般ビジネスマンの間にもコーポレートファイナンスに対するニーズが高まっている。ファイナンス中心のビジネススクールに通うビジネスマンが増え、毎週のようにM&Aやファイナンス関係のセミナーが開催されている。ファイナンス関連の学会にいけば、大学教員よりも実務家の姿の方が多いこともある。

本書『日本企業のコーポレートファイナンス』は、このような潮流を意識し、実務と理論の結びつきを確認する目的で書かれた。大阪ガスと松下電器の資本コスト経営、阪急と阪神の経営統合、伊勢丹の有利子負債削減、キリンビールの有利子負債活用、ANAとJALのエクイティ・ファイナンス、NTTドコモの自社株買いなど多くの事例を取り上げ、その背後にある理論的な考え方について解説している。

株主と経営陣の間に利害対立問題が存在するように、本書の内容は、異なる立場にいるすべての人が納得するものではないかもしれない。筆者達も同様であった。いくつかの事例や現象に対する解釈が食い違った。しかし、それがコーポレートファイナンスの奥深さである。コーポレートファイナンスのすべての理論が、いつの時代にも、どの企業にも通用するわけではない。時代によって、企業によって、答えが異なることがある。とくに、本書の後半部は、そのようなテーマを扱っている。

ファイナンスというと、株式市場や資本市場での錬金術を思い浮かべる方もおられるだろうが、そうではない。われわれが再認識したように、「価値を生み出すのは事業であり企業である」。このことを念頭において本書を読み進めていただければ幸いである。

目次

第1章 企業と投資家
第2章 資本コストと価値評価
第3章 資本コストと企業評価
第4章 資本コストと企業経営の実践(1) -大阪ガスのSVAとグループ経営-
第5章 資本コストと企業経営の実践(2) -松下電器のキャッシュフロー経営とCCM-
第6章 M&A戦略の理論と事例
第7章 負債の利用と企業価値評価
第8章 最適な負債比率の探求
第9章 伊勢丹の有利子負債削減
第10章 積極的な負債の利用 -キリンビールの事例-
第11章 エクイティ・ファイナンスと資金調達の新潮流
第12章 配当政策
第13章 自社株買い
第14章 資生堂の総還元性向
第15章 マブチモーターの「フロア+業績連動型」配当
第16章 企業の現金保有と株式持ち合い