財務諸表監査の変革


著者名 内藤文雄
タイトル 財務諸表監査の変革
出版社 税務経理協会 2003年8月
価格 3100円 税別

書評

2002年1月に監査基準が、また2002年12月に中間監査基準がそれぞれ改訂された。これらの改訂において、営利企業のゴーイング・コンサーンの前提(企業の存続可能性)に関する監査での対応が求められたことやコーポレート・ガバナンスの観点から経営者の不正の発見を強化する規定が盛り込まれた点など、21世紀の財務諸表の監査の規範として画期的と評価されている。

これらの基準の改訂は、上記のようなセンセーショナルな内容がクローズアップされているが、改訂の本旨はつぎのことにある。

つまり、営利企業が作成・開示する財務諸表(連結財務諸表、個別財務諸表、中間連結財務諸表および中間財務諸表)の信頼性を担保する財務諸表の監査においては、財務諸表を通じて得られる企業の事業活動の実態に関する情報が、単に、明文化された会計基準や開示基準に準拠して作成されているかどうかを検証するのではなく、この検証に加えて、財務諸表の情報が結果として企業の事業活動の実態をより正確に表現しているかどうかという観点から検証を行わなければならないということである。すなわち、監査人の実質的な判断が要請されていることを重視しなければならない。

これは、まさに財務諸表監査の変革ともいうべき内容を意味している。

ゴーイング・コンサーンの前提に関する開示内容の検証、ここ数年間で行われた会計ビッグバン以降の新たな会計基準のもとでの財務諸表作成時における経営者の会計的判断や見積りの検証、財務諸表の重要な虚偽表示の原因となる経営者不正の発見など、財務諸表の監査にはこれまで以上に専門的でかつ高度な判断が要求され、また期待されている。

他方、公認会計士および監査法人による監査業務は、国際的に、より広義の保証業務の一つとしての位置づけが与えられるようになっており、監査によって情報の信頼性を担保するということが拡がりをみせている。このような新たな拡がりに対して、財務諸表の監査における信頼性の担保の水準をもって、すべてを説明することは困難になっている。

つまり、財務諸表の監査においても、財務諸表の作成において用いられた、より高度なかつ将来指向的な会計的判断について、その妥当性や適切さを立証する必要性の程度が増加しており、過去指向的に財務諸表を作成する場合での立証とは意味を異にしている。このため、財務諸表の監査によって財務諸表の信頼性についていかなる保証が行われるのかということが改めて問題となっている。また、中間監査についても、これは財務諸表の監査とは逆に、中間連結財務諸表制度が導入されるに際して、中間財務諸表の作成に関する考え方が、それまでの予測主義から実績主義へと変革したために、中間監査と財務諸表の監査(年度監査)との区別について、監査の対象となる情報の性質の違いによる監査の内容の区別が困難となっている。さらには、四半期情報の開示が証券取引所の要請として求められ、それに対するレビューによる信頼性の保証がわが国でも現実のものとなっている。これらの点で、監査による保証の意味内容が改めて問われている。

これらの財務諸表の監査をめぐる種々の論点は、財務諸表情報の信頼性を担保するということだけにとどまらない。むしろ、財務諸表の本来的な存在意義である、コーポレート・ガバナンスにおけるその役立ちに改めて着目し、稀少経済資源の利用が経済システムとして容認されている営利企業が、その私的な過度の利益追求を行ったり、その経営者が不正により違法に利益を享受したりするなど企業の暴走を防ぐ手段としての財務諸表情報の役割が重視されている。この役割は、財務諸表の監査に対しても同様の期待がさらに強くなっている。

そこで、本書は、筆者がここ数年間に発表した論稿をまとめ、財務諸表の監査における監査人の実質的な判断の要請がなにを意味しているのか、財務諸表の監査における信頼性の保証やその他の情報に対する監査による保証はいかにして差別化されうるのか、あるいはコーポレート・ガバナンスの観点から監査はどのような貢献ができるのかということを主題として発表年代順に整理したものである。

目次

第1部 監査概念の変革と保証業務
第1章 公認会計士の監査・保証業務の拡張に関する調査研究の動向
第2章 資産運用会社の投資パフォーマンスの提示・開示に対する検証 -公認会計士の新たな保証業務-
第3章 会計監査の対象 -監査対象の外延的拡大と内包的意味変化-
第4章 連結財務諸表監査の主要論点と監査による保証の意味
第5章 ゴーイング・コンサーン監査と21世紀の監査像
第6章 監査基準の改訂と監査研究のパースペクティブ
第7章 会計判断の一般性と監査判断の特殊性 -新会計基準がもたらす判断の高度化をめぐって-
第8章 中間監査による保証とレビューによる保証との差異
第9章 財務情報に対する中位水準の保証の決定要因
第2部 コーポレート・ガバナンスと監査
第10章 コーポレート・ガバナンスに対する非財務情報の有用性
第11章 会計士の倫理と責任
第12章 情報監査と実態監査 -両者を区別すべき監査理論的な局面は何か-
第13章 コーポレート・ガバナンスと会計・監査の機能
第14章 コーポレート・ガバナンスと内部監査機能
第15章 監査法人の規制と監督
第16章 財務報告・監査の課題と展望 -会計・監査規範の形成と国際化をめぐって-