裁量的会計行動研究における総発生処理高アプローチ

要約

実証会計学におけるコア概念の1つは会計発生処理高(accounting accruals)——会計発生高ともいう——であるが、この会計発生処理高の研究においては、3つのアプローチが区別されている。(1)総発生処理高アプローチ、(2)特定的発生処理高アプローチ、(3)分布テスト・アプローチの3つがそれである。本稿では、これらの中で(1)総発生処理高アプローチが取り上げられ、その主要な論点が詳細に検討されている。

総発生処理高は当期純利益の営業活動によるキャッシュフローの差額と定義されているが、実証分析のターゲットとなるのは、この総発生処理高からさらに非裁量的発生処理高を差し引いた残余である。この残余は経営者の裁量行動によって「汚されている」とみられる部分であり、裁量的発生処理高といわれている。この裁量的発生処理高の分離にあたってはいくつかの代替的な期待モデルが提唱されているが、いずれも問題含みであり、経験的検証においては測定誤差によって悩まされている。本稿では、最新の文献によって、裁量的発生処理高の測定にまつわるこれらの論点を精密に分析し、問題の所在を明確にするとともに、その解決の途を模索している。

裁量的発生処理高は経営者の裁量行動に歪められた金額であり、持続性が低いことが突き止められている。機会主義的に歪曲された金額は、将来期間における反転によって、すぐに帳消しにされてしまう傾向があるのである。このため、効率的な市場においては、裁量的発生処理高は株価関連性を失うものと考えられているが、最近の実証研究は、理論的予想とは逆に、株式市場は裁量的発生処理高を株価に織り込み、プラスに評価していることを明らかにしている。本稿で検討しているのは、この新しいアノーマリーである。

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岡部孝好

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