キャッシュレス決済等に関する消費者余剰の計測と社会コストに関する研究

2023・04

要約

政府の「キャッシュレスポイント還元事業(2019年10月~2020年6月)」や新型コロナウィルスの感染流行を経て、わが国でも、キャッシュレス決済が普及しつつある。しかしながら、キャッシュレス決済が、わが国全体の経済厚生にどの様な影響を及ぼすのかについては不明な点が多い。本研究では、キャッシュレス決済に関する消費者側の利便性を金銭的に評価(Willingness to Pay)するとともに、消費者の決済データからネットワークコストを計算し、キャッシュレス決済が経済厚生に及ぼす影響について検討を行う。本研究で得られた結論は以下の通りである。
1)キャッシュレス決済に関する消費者の金銭的評価(WTP, willingness to pay)は、サンプル全体で合計すると正の値が得られるものの、消費者ごとのばらつきが大きい。キャッシュレス決済をよく利用する消費者では、キャッシュレス決済に対する金銭的評価が高い一方で、比率では少数であるが現金決済をメインに利用する消費者では、キャッシュレス決済に対する金銭的評価がマイナス(費用)となっていた。また、キャッシュレス化のさらなる推進に対する両者の評価の乖離は拡大する傾向が見られた。
2)消費者の金銭的評価(WTP)の決定要因について、消費者属性(年齢、性別、所得等)、決済手段の利用状況(キャッシュレス決済金額、キャッシュレス決済件数)を説明変数として回帰分析を行ったところ、世帯所得、決済金額、決済件数が、金銭的評価と正の関係にあることが観察された。また、ICカード、コード決済、クレジットカードの3つに分けて分析した場合、コード決済、クレジットカードで、金額、件数ともに有意な正の関係が観察された。3)キャッシュレス決済に係る社会コストについては、ネットワーク手数料に着目し、消費者の決済データから決済件数およびチャージ件数をベースに算出を行った。「WTP-ネットワーク手数料」を被説明変数とした場合、決済金額や決済件数について概ね正の符号が得られるものの有意性が大きく低下した。但し、コード決済については、正の符号の有意性が観察された。

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藤原 賢哉

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