繰延税金資産の回収可能性の判断に関する実態調査

2023・06

要約

本稿では、有価証券報告書のXBRLファイルから税効果会計の注記データを抽出して、評価性引当額に関する分析を行った。企業会計審議会の「税効果会計に係る会計基準」は、繰延税金資産の回収可能性を毎期見直した上で、将来の税金負担額を軽減する効果が認められないと判断される部分は評価性引当額として繰延税金資産から控除することを求めている。繰延税金資産の回収可能性は、企業本来の収益力のほか、タックス・プランニングや将来加算一時差異に基づいて判断されるので、評価性引当額は、将来の収益力に関する経営者の私的情報を反映するかぎり将来業績の有用なシグナルになる。その一方で、評価性引当額は、経営者による利益調整の手段として用いられるかもしれない。また、企業会計基準委員会の適用指針は、過去および当期の業績を主な要件として企業を分類した上で、繰延税金資産の回収可能性を判断する具体的な取扱いを定めている。もし経営者の裁量または過去および当期の業績に基づく画一的な判断が強く作用しているとすれば、評価性引当額と将来業績の関連性はそれほど強くないかもしれない。そこで、本稿では、評価性引当額と当期または将来の業績水準の関連性を分析する。分析の結果、評価性引当額と当期業績水準の間にマイナスの相関があり、当期の税引前当期純利益が低い企業ほど評価性引当額の水準や繰延税金資産小計に占める割合が高くなる傾向にある。また、評価性引当額と将来業績水準の間にもマイナスの相関があり、評価性引当額の水準や繰延税金資産小計に占める割合が高い損失計上企業ほど将来業績の水準が低迷する傾向にあることが分かった。しかし、将来業績の変化については、頑健な分析結果を得ることはできなかった。

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中島 隆広

音川 和久

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